執筆の文体ルールを先に決める — 数式は1章1本・比喩カタログ(連載⑳)

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執筆の文体ルールを先に決める — 数式は1章1本・比喩カタログ(連載⑳)

執筆の文体ルールを先に決める — 数式は1章1本・比喩カタログ(連載⑳)

連載第20回です。前回(連載⑱)の最後で「次回は、執筆の文体ルールを先に決めた話を書く」と予告していました。今回はその内容です。AIサブエージェント並列執筆(連載④)で触れた「トーン見本を1つ指定する」というやり方をさらに一歩進め、執筆に入る前に文体そのもののルールと比喩の辞書を作っておく、という工程についてまとめます。


なぜ「あとから統一」ではなく「先にルール」なのか

連載④で書いたとおり、複数章を並行執筆させると、統合作業で用語の表記ゆれや説明の重複を手直しする必要が出てきます。この統合コストは、章数が増えるほど積み上がっていきます。そこで、8章構成のリーン初版(連載⑤)を書き始める段階で、「書いてから揃える」のではなく「書く前に文体のルールを決めておく」方針に切り替えました。統合フェーズで直す手間を、執筆前のルール整備に前倒しする狙いです。


ルール1:数式は1章につき1本まで

「日本の測地系がわかる本」は測量士補・GIS担当者・新人教育担当者など、数式に慣れていない読者も想定しています。そこで決めたのが「1つの章で登場させる新規の数式は原則1本まで」というルールです。

  • 複数の変換式を扱いたい章では、メインの式だけを本文に載せ、残りは「発展編」として脚注や別章(ブログ連載のE群・数式シリーズ)へ回す
  • 1本に絞った数式は、必ず「式が何を表しているか」を先に文章で説明してから提示する
  • 章の後半で同じ式を再度使う場合も、再掲するのではなく「〇章の式を参照」で済ませ、同じ式を2回説明しない

この方針は、ブログ側で並行して書いている数式特化のE群記事(楕円体は a と f だけで決まるなど)とは対照的です。本では数式を絞り、深掘りしたい読者はブログの数式シリーズへ誘導する、という役割分担にしています。


ルール2:比喩カタログを先に作る

もう1つの柱が、比喩カタログです。測地系・ジオイド・地殻変動補正といった概念は、図がなくても比喩で説明できる部分が多くあります。執筆前に、章をまたいで使い回す比喩を一覧化しておきました。

概念 比喩
ジオイド 「凪いだ海面」を陸地の下まで延長した仮想の面
セミダイナミック補正 地面がベルトコンベアのように少しずつ動く分の「後付け調整」
楕円体高とジオイド高の関係 「地面の凸凹」と「海面の凸凹」を足し算する2階建て構造
測地系のパラメータ変換とグリッド変換 「1つの計算式で丸ごと動かす」か「マス目ごとの実測値で動かす」かの違い

比喩カタログを先に用意しておくメリットは、章ごとに違う担当(自分で書く場合もAIサブエージェントに書かせる場合も)が同じ比喩を使えることです。ある章で「ジオイド=凪いだ海面」と説明したのに、別の章で違う比喩を持ち出すと、読者の頭の中でイメージが割れてしまいます。カタログを1箇所にまとめておけば、執筆時に「この概念はこの比喩」と機械的に参照でき、統合フェーズでの表現ゆれ修正がほぼ不要になりました。


ルール3:「ですます調」の温度感を1章で固定する

連載④のトーン見本方式をさらに明文化し、「基準となる章」を1つ指定して、そこからいくつかの文型パターンを抜き出しておきました。

  • 断定を避けたい箇所の言い回し(「〜と考えられます」「〜が一般的です」)
  • 読者に問いかける導入文の型(「〜と思ったことはありませんか」)
  • 章末まとめの箇条書きの粒度(1項目1文、根拠となる数値を含める)

これらを「文体ルール.md」として1ファイルにまとめ、各章の執筆前に必ず参照する運用にしました。正典ファイル1枚でAIに文脈を渡す(GeoPrism JP)で紹介したレジストリ方式と同じ発想で、文体ルールも「複製せず1箇所を参照する」形にしています。


効果 — 統合作業がどう変わったか

文体ルールと比喩カタログを先に用意してから書いた章では、統合フェーズで直す箇所が明らかに減りました。特に比喩の表記ゆれはほぼゼロになり、統合作業で残ったのは「章間参照のズレ(章番号の不一致)」程度に絞られています。数式についても、1章1本ルールのおかげで「どの章に何の式があるか」を把握しやすくなり、読者からの質問対応もしやすくなると見込んでいます。

一方で、ルールを先に決めすぎると、執筆中に「この概念にはこの比喩よりもっと良い言い回しがある」と気づいても、カタログの修正・全章への反映という手間が発生します。実際には、技術書の数値は全部裏取りする(連載⑯)で紹介した「要確認リスト」と同じように、比喩カタログにも「暫定」フラグを設け、確定するまでは変更を許容する運用で折り合いをつけています。


まとめ

  • 複数章の統合コストを減らすため、「書いてから揃える」のではなく「書く前に文体ルールを決める」方針に切り替えた
  • 「数式は1章1本まで」というルールで、数式アレルギーのある読者にも読みやすい章立てにした
  • 比喩カタログを先に作ることで、章をまたいだ表現の統一をほぼ自動化できた
  • 文体ルール・比喩カタログは正典ファイル方式で1箇所にまとめ、複製しない運用にしている

Kindle本『日本の測地系がわかる本』表紙

次回は、執筆時に見つかった誤解(往復変換の「数cm残る」という説明が実は間違っていた話)について書く予定です。


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開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。


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