セミダイナミック補正(JGD2024C)とは何か——「今日の座標」と「元期の座標」が違う理由

GeoConverterPro がサポートする座標系の中に JGD2024C があります。これは「セミダイナミック補正」を適用した座標系で、JGD2024BやJGD2024Dと並ぶ JGD2024 のバリアントのひとつです。
名前を聞いても「何が違うのか」がわかりにくい補正ですが、RTK測量や精密な GNSS 測量を行う現場では、この補正を意識するかどうかで座標の意味が変わってきます。
「元期座標」と「今期座標」——2種類の座標がある理由
日本列島は地殻変動が活発で、地点の位置が毎年少しずつ変化しています。地震のような突発的な変動だけでなく、プレート運動などによるじわじわとした経年変化が常に進行しています。
この変化に対して、国土地理院は測地系の基準として特定の時点(元期)を固定することにしています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 元期座標 | SemiDyna2026 の基準時点(≈ JGD2011 ≈ WGS84)での位置座標 |
| 今期座標 | 測量を行った実際の日時(今日・今年)での位置座標 |
ここで重要なのが「元期 ≈ JGD2011」という関係です。
JGD2024(元期)は厳密には ITRF2020 @ 2025.0 を基にしており、JGD2011(ITRF2008 @ 2011.0)とは参照フレームと時点が異なります。しかし国土地理院は JGD2024 を定義する際、既存の基準点成果(JGD2011)との連続性を最優先としており、両者の差は国家測量網の精度(数cm)の範囲内に収まるよう設計されています。
この設計方針により、実用上は次のように扱えます:
WGS84 ≒ JGD2011 ≒ JGD2024(元期)
つまり、JGD2011 から JGD2024(元期) への中間変換は不要です。GPS で取得した WGS84 座標をそのまま「元期座標」として扱い、そこにセミダイナミック補正を加えると「今期座標(JGD2024C)」が得られます。
セミダイナミック補正の概念図
WGS84 = JGD2011 = JGD2024(元期)
↓ セミダイナミック補正を加算(元期 → 今期)
JGD2024C(今期座標)
JGD2024C(今期座標)
↓ セミダイナミック補正を反復逆変換(今期 → 元期)
WGS84 = JGD2011 = JGD2024(元期)
地図や台帳は「元期座標(JGD2011/JGD2024)」で管理されています。RTK測量で得た「今期座標」をそのまま使うと、経年変化の分だけズレが生じます。セミダイナミック補正はこのズレを吸収します。
GeoConverterPro での実装——SemiDyna2026.db と 5km メッシュ
GeoConverterPro の JGD2024CCorrection は、国土地理院が公開する補正パラメータファイルを独自の SQLite データベース(SemiDyna2026.db)に変換して内蔵しています。
補正の仕組みは他の JGD 補正と共通ですが、いくつか異なる点があります。
| 項目 | JGD2024B(地震補正) | JGD2024C(セミダイナミック補正) |
|---|---|---|
| データ | jgdMerge2024.db | SemiDyna2026.db |
| メッシュサイズ | 3次メッシュ(約1km) | 5kmメッシュ |
| 補正の性質 | 突発的・局所的な変動 | 経年的・全国的な変動 |
| year_no(複数地震) | あり | なし(1種類のみ) |
5km メッシュは地震補正の約 1km メッシュより粗い設定です。これはセミダイナミック補正が地震のような局所的な急変動ではなく、広域的になだらかに変化する経年変動を扱うためです。
補正値の適用方向は加算(addFlg: true)です。元期座標に補正値を加算することで今期座標が得られます。逆変換(今期→元期)は順変換を繰り返す反復収束法で行います。
補正量の規模——どれくらいズレるのか
セミダイナミック補正の量は地震補正と比べると小さく、全国的には 数cm〜10数cm 程度です。
「数cmなら無視できるのでは?」と思うかもしれませんが、次のような場合は無視できません。
- RTK測量と既設基準点の照合:基準点の元期座標と今期の測定値を比較する場合
- 精密工事の位置管理:mm単位の精度が求められる杭打ちや設備設置
- GNSS連続観測データの解析:長期間のデータを統一した基準で扱う場合
一方、一般的な土地測量や GIS での位置確認であれば、セミダイナミック補正を意識しなくても実用上の問題は生じないことがほとんどです。
JGD2024C → 東京測地系19系の変換ログで読む
JGD2024C から東京測地系19系への変換は4段階で進みます。
JGD2024C(今期座標)
→ ① セミダイナミック補正を逆算(今期 → 元期)
→ JGD2011(= WGS84 = 元期)
→ ② JGD2011 → JGD2000 補正(地震補正)
→ ③ JGD2000 → Tokyo 補正(TKY2JGD 逆補正)
→ ④ TOKYO 平面直角座標変換(ガウス・クリューゲル投影)
JGD2024B と異なるのは①だけで、②③④は共通です。3地点のログを確認します。
熊本県(宇土市付近)・第2系
| ステップ | 補正内容 | 補正量 |
|---|---|---|
| ① JGD2024C → JGD2011 | セミダイナミック補正 逆算 | Δ緯度 +0.0169″, Δ経度 -0.0250″ |
| ② JGD2011 → JGD2000 | 補正エリア外 | 変化なし |
| ③ JGD2000 → Tokyo | TKY2JGD 逆補正 | Δ緯度 -12.1858″, Δ経度 +8.3870″ |
| ④ 第2系投影 | ガウス・クリューゲル | X: -38676.683m, Y: -29775.669m |
ステップ①の国土地理院 SemiDynaEXE との照合値:32.654163683° / 130.680230069° ✅ 一致
石川県(穴水町付近)・第7系
| ステップ | 補正内容 | 補正量 |
|---|---|---|
| ① JGD2024C → JGD2011 | セミダイナミック補正 逆算 | Δ緯度 +0.0047″, Δ経度 -0.0285″ |
| ② JGD2011 → JGD2000 | 2011年東北地震(逆算)→ 2007年能登半島地震(逆算) | 2段階 |
| ③ JGD2000 → Tokyo | TKY2JGD 逆補正 | Δ緯度 -10.7257″, Δ経度 +10.8384″ |
| ④ 第7系投影 | ガウス・クリューゲル | X: 134501.598m, Y: -22777.848m |
ステップ①の国土地理院 SemiDynaEXE との照合値:37.215001303° / 136.906992083° ✅ 一致
新潟県(柏崎市付近)・第8系
| ステップ | 補正内容 | 補正量 |
|---|---|---|
| ① JGD2024C → JGD2011 | セミダイナミック補正 逆算 | Δ緯度 +0.0039″, Δ経度 -0.0337″ |
| ② JGD2011 → JGD2000 | 2011年東北地震(逆算)→ 2007年中越沖地震(逆算) | 2段階 |
| ③ JGD2000 → Tokyo | TKY2JGD 逆補正 | Δ緯度 -10.8481″, Δ経度 +11.4399″ |
| ④ 第8系投影 | ガウス・クリューゲル | X: 151667.292m, Y: 5239.527m |
ステップ①の国土地理院 SemiDynaEXE との照合値:37.370001069° / 138.555990650° ✅ 一致
JGD2024B との最終座標の差
| 地点 | JGD2024B(X/Y) | JGD2024C(X/Y) | 差(X/Y) |
|---|---|---|---|
| 熊本県(宇土市付近) | -38677.261 / -29775.377 | -38676.683 / -29775.669 | +0.578 / -0.292 m |
| 石川県(穴水町付近) | 134501.241 / -22776.342 | 134501.598 / -22777.848 | +0.357 / -1.506 m |
| 新潟県(柏崎市付近) | 151667.162 / 5240.385 | 151667.292 / 5239.527 | +0.130 / -0.858 m |
地震の影響が大きい石川県(穴水町付近)で差が最大(Y方向 約1.5m)になります。これは「地震補正を外す」B と「セミダイナミック補正を外す」C の入口の違いが最終座標に積み重なるためです。
JGD2024B・JGD2024C・JGD2024D の使い分け
JGD2024 には3つのバリアントがあり、それぞれ補正の種類が違います。
| 座標系 | 何を補正するか | 主な場面 |
|---|---|---|
| JGD2024B | 地震による突発的な座標変動(熊本・能登等) | 地震影響地域での精密変換 |
| JGD2024C | 経年的な地殻変動(セミダイナミック補正) | RTK測量での元期/今期変換 |
| JGD2024D | プレート運動等の定常的な地殻変動(pos2jgd) | 精密GNSS測量・地殻変動研究 |
3つは独立した補正で、重ねて適用するものではありません。どの補正が必要かは、測量の目的と精度要件によります。
GeoConverterPro の変換画面では、これら3つのバリアントを同一画面に並べて比較できます。どのバリアントを選べばよいか迷ったときは、同じ座標を変換して結果の違いを確認してみてください。
まとめ
セミダイナミック補正(JGD2024C)は、「今日測定した座標」と「台帳に記録された元期座標」のズレを吸収するための補正です。
- 経年的な地殻変動を対象とし、地震補正(JGD2024B)とは別の概念
- データは
SemiDyna2026.db(5km メッシュ)を使用 - 補正量は全国的に数cm〜10数cm、精密測量では無視できない
- GeoConverterPro では JGD2024B・C・D を同時に表示して比較できる
RTK測量の結果を地籍図や設計図と照合する際に「わずかなズレが気になる」という状況があれば、セミダイナミック補正が必要かどうかを確認するポイントになります。
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