定常時地殻変動補正(JGD2024D)とは何か——ITRF2020 と日本測地系の間にある「プレートの動き」

GeoConverterPro がサポートする座標系の中に JGD2024D があります。これは「定常時地殻変動補正(pos2jgd)」を適用した座標系で、JGD2024B・JGD2024C と並ぶ JGD2024 のバリアントのひとつです。
セミダイナミック補正(JGD2024C)と似た名前ですが、補正の対象が異なります。JGD2024C が「地殻内部のじわじわした変形」を扱うのに対し、JGD2024D は「日本列島が乗るプレートごとの定常的な移動」を扱います。
「定常時地殻変動」とは何か
地球の表面を覆うプレートは、年間数cm〜十数cm のペースで絶えず動き続けています。日本列島はユーラシアプレートと北米プレートにまたがっており、この動きは止まることなく継続しています。
| 変動の種類 | 原因 | 対応する補正 |
|---|---|---|
| 突発的変動 | 地震(熊本・能登等) | JGD2024B |
| 経年的変形 | 地殻内部の弾性変形 | JGD2024C(セミダイナミック補正) |
| 定常的移動 | プレート運動(テクトニクス) | JGD2024D(pos2jgd) |
定常時地殻変動は突発的でも局所的でもなく、全国一様に、毎年ほぼ同じ方向・同じ速度で進行する変動です。
ITRF2020 と JGD2024——「国際基準」と「日本基準」の違い
JGD2024D を理解するには、まず ITRF2020 について知る必要があります。
GNSS 衛星(GPS・みちびき等)が使う座標系は、地球全体を対象とした国際的な参照系 ITRF(International Terrestrial Reference Frame) です。最新版が ITRF2020 です。
ITRF は「地球の重心を原点」として定義されるため、各プレートはそれぞれの速度で移動し続けることになります。一方、JGD2024 は日本列島(特にユーラシアプレート)を基準にしているため、日本国内の基準点は移動しない(固定されている) ように見えます。
この「ITRF2020(移動し続ける)」と「JGD2024(日本プレートに固定)」のズレを補正するのが pos2jgd(定常時地殻変動補正) です。
GNSS測定値(ITRF2020座標 = 毎年動く)
↓ pos2jgd 補正を加算(元期 → 今期)
JGD2024D(日本プレート上の今期座標)
JGD2024D(今期座標)
↓ pos2jgd 補正を反復逆変換(今期 → 元期)
WGS84 = JGD2011 = JGD2024(元期)
元期と今期——JGD2024C と共通する構造
JGD2024D の元期・今期の概念は JGD2024C と共通です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 元期座標 | pos2jgd_202601_ITRF2020.db の基準時点(≈ JGD2011 ≈ WGS84)での位置座標 |
| 今期座標 | 測量を行った実際の日時での ITRF2020 基準の位置座標 |
JGD2024(元期)は実用上 JGD2011 ≈ WGS84 と同一視できます(両者の差は国家測量網の精度範囲内)。したがって、GPS で取得した WGS84 座標をそのまま「元期座標」として扱い、そこに pos2jgd 補正を加えると「今期座標(JGD2024D)」が得られます。
WGS84 ≒ JGD2011 ≒ JGD2024(元期)
GeoConverterPro での実装——pos2jgd_202601_ITRF2020.db と 5km メッシュ
GeoConverterPro の JGD2024DCorrection は、国土地理院が公開する pos2jgd パラメータファイルを独自の SQLite データベース(pos2jgd_202601_ITRF2020.db)に変換して内蔵しています。
JGD2024C との実装上の比較は次の通りです。
| 項目 | JGD2024C(セミダイナミック補正) | JGD2024D(定常時地殻変動補正) |
|---|---|---|
| データ | SemiDyna2026.db | pos2jgd_202601_ITRF2020.db |
| テーブル名 | semidyna_corrections | pos2jgd_corrections |
| メッシュサイズ | 5kmメッシュ | 5kmメッシュ |
| 補正の適用方向 | 加算(addFlg: true) |
加算(addFlg: true) |
| year_no(複数イベント) | なし | なし |
| 逆変換方法 | 順変換の反復収束(Newton-Raphson法) | 順変換の反復収束(Newton-Raphson法) |
実装構造は JGD2024C とほぼ同一です。データベース名とテーブル名が異なるだけで、補正の計算ロジックは共通の JGDCorrectionHelper を使用しています。
補正値の適用方向は加算(addFlg: true)です。元期座標に補正値を加算することで今期座標が得られます。逆変換(今期→元期)は順変換を繰り返す反復収束法で行います。
JGD2024C と JGD2024D の違い——「何の変動を補正するか」
同じ「経年変化」を扱いますが、補正対象が異なります。
| JGD2024C(セミダイナミック) | JGD2024D(定常時地殻変動) | |
|---|---|---|
| 補正対象 | 地殻内部のひずみ蓄積・解放による変形 | テクトニクスによるプレート全体の移動 |
| 変化のパターン | 地域によって不均一(ひずみの分布による) | 比較的一様(プレートの移動速度による) |
| 主な利用場面 | RTK測量の元期/今期変換、基準点の時刻補正 | ITRF2020基準のGNSS測位をJGD2024に変換 |
| パラメータ更新 | 地殻変動の状況に応じて更新 | 年次更新(ITRFの改定に追従) |
実務上は、GNSS 受信機やクラウド測位サービスから出力される座標が ITRF ベースの場合に JGD2024D(pos2jgd)が必要になります。一方、現地で RTK 測量した座標を台帳に記録された元期座標と照合したい場合は JGD2024C が対応します。
補正量の規模と分布
pos2jgd(定常時地殻変動)補正の規模は、全国で数cm〜10数cm 程度です。ヒートマップで見ると、北海道・東北で太平洋方向への移動が明確に表れ、西日本では補正量が小さくなる傾向があります。

この補正が問題になる場面:
- 精密 GNSS 測位:最新の GNSS 受信機・測位サービスが ITRF2020 ベースで出力する座標を JGD2024 に変換する場合
- GNSS 連続観測データの長期解析:観測期間が長いほど、プレート移動による累積ズレが無視できなくなる
- 地殻変動モニタリング:国土地理院の電子基準点データを用いる研究・業務
通常の土地測量や GIS 作業では、この補正を意識する必要はほぼありません。
📖 技術詳細:定常時地殻変動補正パラメータ(pos2jgd)の可視化
JGD2024D → 東京測地系19系の変換ログで読む
JGD2024D から東京測地系19系への変換フローは JGD2024C と構造が同じで、第1ステップの補正種別だけが異なります。
JGD2024D(今期座標)
→ ① pos2jgd 補正を逆算(今期 → 元期)
→ JGD2011(= WGS84 = 元期)
→ ② JGD2011 → JGD2000 補正(地震補正)
→ ③ JGD2000 → Tokyo 補正(TKY2JGD 逆補正)
→ ④ TOKYO 平面直角座標変換(ガウス・クリューゲル投影)
熊本県(宇土市付近)・第2系
| ステップ | 補正内容 | 補正量 |
|---|---|---|
| ① JGD2024D → JGD2011 | pos2jgd 補正 逆算 | Δ緯度 +0.0169″, Δ経度 -0.0250″ |
| ② JGD2011 → JGD2000 | 補正エリア外 | 変化なし |
| ③ JGD2000 → Tokyo | TKY2JGD 逆補正 | Δ緯度 -12.1858″, Δ経度 +8.3870″ |
| ④ 第2系投影 | ガウス・クリューゲル | X: -38676.683m, Y: -29775.669m |
ステップ①の国土地理院 POS2JGD との照合値:32.65416368° / 130.68023007° ✅ 一致
石川県(穴水町付近)・第7系
| ステップ | 補正内容 | 補正量 |
|---|---|---|
| ① JGD2024D → JGD2011 | pos2jgd 補正 逆算 | Δ緯度 +0.0047″, Δ経度 -0.0285″ |
| ② JGD2011 → JGD2000 | 2011年東北地震(逆算)→ 2007年能登半島地震(逆算) | 2段階 |
| ③ JGD2000 → Tokyo | TKY2JGD 逆補正 | Δ緯度 -10.7257″, Δ経度 +10.8384″ |
| ④ 第7系投影 | ガウス・クリューゲル | X: 134501.598m, Y: -22777.848m |
ステップ①の国土地理院 POS2JGD との照合値:37.21500130° / 136.90699208° ✅ 一致
新潟県(柏崎市付近)・第8系
| ステップ | 補正内容 | 補正量 |
|---|---|---|
| ① JGD2024D → JGD2011 | pos2jgd 補正 逆算 | Δ緯度 +0.0039″, Δ経度 -0.0337″ |
| ② JGD2011 → JGD2000 | 2011年東北地震(逆算)→ 2007年中越沖地震(逆算) | 2段階 |
| ③ JGD2000 → Tokyo | TKY2JGD 逆補正 | Δ緯度 -10.8481″, Δ経度 +11.4399″ |
| ④ 第8系投影 | ガウス・クリューゲル | X: 151667.292m, Y: 5239.527m |
ステップ①の国土地理院 POS2JGD との照合値:37.37000107° / 138.55599065° ✅ 一致
JGD2024B との最終座標の差
| 地点 | JGD2024B(X/Y) | JGD2024D(X/Y) | 差(X/Y) |
|---|---|---|---|
| 熊本県(宇土市付近) | -38677.261 / -29775.377 | -38676.683 / -29775.669 | +0.578 / -0.292 m |
| 石川県(穴水町付近) | 134501.241 / -22776.342 | 134501.598 / -22777.848 | +0.357 / -1.506 m |
| 新潟県(柏崎市付近) | 151667.162 / 5240.385 | 151667.292 / 5239.527 | +0.130 / -0.858 m |
現時点では JGD2024C と JGD2024D の補正量が同値のため、最終座標も一致しています(パラメータ更新後は差が生じる可能性があります)。
JGD2024B・JGD2024C・JGD2024D の使い分け
| 座標系 | 何を補正するか | 主な場面 |
|---|---|---|
| JGD2024B | 地震による突発的な座標変動(熊本・能登等) | 地震影響地域での精密変換 |
| JGD2024C | 経年的な地殻内変形(セミダイナミック補正) | RTK測量での元期/今期変換 |
| JGD2024D | プレート運動による定常的な移動(pos2jgd) | ITRF2020ベースのGNSS座標をJGD2024へ変換 |
3つは独立した補正で、重ねて適用するものではありません。GeoConverterPro の変換画面では3つのバリアントを同一画面に並べて比較できます。
まとめ
定常時地殻変動補正(JGD2024D)は、ITRF2020(国際参照系)と JGD2024(日本測地系)の間にある「プレート運動由来のズレ」を吸収するための補正です。
- プレートの定常的な移動を対象とし、地震補正(B)・セミダイナミック補正(C)とは別の概念
- データは
pos2jgd_202601_ITRF2020.db(5km メッシュ)を使用 - 補正量は全国で数cm〜10数cm、GNSS精密測位では無視できない
- GeoConverterPro では JGD2024B・C・D を同時に表示して比較できる
GNSS 測位サービスの出力が「ITRF2020 ベース」と明示されている場合、または精密な GNSS 座標を JGD2024 の地図・台帳と照合する場面では、JGD2024D が必要な補正になります。
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