執筆の誤解を見つけた — 往復変換「数cm残る」は間違いだった(連載㉑)

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執筆の誤解を見つけた — 往復変換「数cm残る」は間違いだった(連載㉑)

執筆の誤解を見つけた — 往復変換「数cm残る」は間違いだった(連載㉑)

連載第21回です。前回(連載⑳)の最後で予告していた、執筆中に見つけた誤解の話です。「日本の測地系がわかる本」の座標変換の章で、当初「往復変換すると数cm程度の誤差が残る」と書いていた説明が、実は間違いだったという顛末をまとめます。


最初に書いていた説明

座標変換の章では、jgd2024bと東京測地系19系のような往復変換(A→B→Aと変換して元に戻す)を扱う節があります。初稿では、次のような説明を書いていました。

「複数段の補正(地震補正・TKY2JGDグリッド補正・平面直角座標への投影)を経由するため、往復変換では丸め誤差が積み重なり、数cm程度の差が残ることがある」

これは、変換段数が多いほど誤差が積み上がるはずだという直感に基づいた記述でした。地震補正が複数回、グリッド補間、投影・逆投影と、確かに段数は多く見えます。「段数が多い=誤差が積み上がる」という発想自体は、数値計算の一般論としては間違っていません。


実測ログを確認したら、桁が違った

連載⑯(技術書の数値は全部裏取りする)で触れた「断定は必ず裏取りする」ルールに従い、この「数cm」という数値の根拠を確認する作業に入りました。ブログ側で既に検証していた実測ログ、「jgd2024bと東京測地系19系を往復変換すると元に戻るかをログで確かめる」を見直したところ、3地点のうち2地点は表示桁で完全に一致、残る1地点(新潟県柏崎市付近)でも最大差は経度換算で約1.8mmでした。

地点 往復後の差
熊本県(宇土市付近) 表示桁で一致(差なし)
石川県(穴水町付近) 表示桁で一致(差なし)
新潟県(柏崎市付近) 経度差 約1.8mm、平面座標Y差 1mm

「数cm」どころか、実際にはミリメートル未満〜2mm弱でした。1桁どころか、1〜2桁近く見積もりが大きすぎたことになります。


なぜ「数cm」だと思い込んでいたのか

裏取りの過程で、思い込みの理由を振り返りました。

  1. 段数の多さと誤差量を混同していた — 変換段数が多い=誤差要因が多いのは事実ですが、GeoCoreJPの各段はdouble精度の浮動小数点演算で、丸め誤差自体はナノメートル〜マイクロメートル級です。段数が多くても、誤差は掛け算的に積み上がるのではなく、ほぼ独立に発生してわずかに打ち消し合う場合もあります。
  2. 「往復変換には誤差が残るもの」という一般論に引きずられた — 測量分野では「往復測量で誤差を検出する」という考え方が一般的なため、無意識に「往復=誤差が出て当然」という前提を大きめに見積もっていました。
  3. 具体的なログを見ずに執筆を進めた — 章の骨子を先に書き、数値は後で裏取りする進め方をしていたため、実測前の「たぶんこれくらい」という感覚値がそのまま初稿に残ってしまいました。

修正した記述

最終的に、該当節は次のように書き直しました。

「複数段の補正を経由する往復変換でも、実測では往復後の差は概ね2mm以内に収まる。理論上は丸め誤差が段数分だけ発生しうるが、GeoCoreJPの実装では各段がdouble精度で計算されるため、実用上の影響はミリメートル未満〜数mmにとどまる」

数値を「数cm」から「概ね2mm以内」に修正しただけでなく、なぜその精度に収まるのか(double精度演算・段ごとの誤差がほぼ独立)という理由も添えました。連載⑮(わかりやすさの品質基準)で扱った「中学生が3行でまとめられるか」の基準にも、数値だけでなく理由をセットで書くことが含まれています。


この誤解から得た教訓

  • 「たぶんこれくらい」は必ず実測ログで裏取りする — 直感的な見積もりは、特に「積み重なるはず」という方向に過大評価しやすい。
  • ブログの検証記事が、本の執筆でそのまま裏取り資料になった連載⑯で触れた「数値は裏取りする」方針は、今回のように既存の検証記事を再利用できる場面で特に効果を発揮しました。ブログとKindle本を並行して書いている構成のメリットの一つです。
  • 誤解を「間違いでした」と正直に書くこと自体がコンテンツになる — 執筆過程の失敗を隠さず記事化することで、読者に「検証プロセスそのもの」を見せられます。

まとめ

  • 「日本の測地系がわかる本」の初稿で、往復変換の誤差を「数cm」と直感で見積もっていた
  • 既存の実測ログを裏取りしたところ、実際の差は最大でも約1.8mmだった
  • 誤解の原因は「変換段数の多さ」と「誤差量」を混同していたこと
  • 本の記述を「概ね2mm以内」+理由付きに修正し、この検証過程自体を連載記事として公開した

Kindle本『日本の測地系がわかる本』表紙

次回は、制作ログをどう残しているか(進捗.mdでAI協働時代の作業記録を残す話)について書く予定です。


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開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。


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