
GEONET日々の座標値の解析ストラテジ — F3解・F5解・F5.1解の技術的変遷
2026年4月1日に電子基準点の「日々の座標値」が F5.1解 へ更新された件は、ITRF2020移行と座標変換の元期の記事で座標変換の前提として整理しました。本記事はその技術的な背景編として、GEONET(電子基準点網)の解析ストラテジが F3解 → F5解 → F5.1解 とどう進化してきたかを、もう一歩踏み込んでまとめます。座標変換を扱う GeoConverterPro(GCVP)の足元にある「座標がどう作られているか」を知る材料になります。
そもそも「解析ストラテジ」とは
電子基準点は全国約1,300点で GNSS を連続観測していますが、観測データをそのまま座標にできるわけではありません。基準とする座標系、固定点の決め方、対流圏遅延の推定方法、使用ソフトウェアといった一連の解析方針=「解析ストラテジ」を通して、初めて日々の座標値が求まります。この方針が更新されると、座標の精度や国際整合性が変わります。
世代ごとの全体像
| 世代 | F3解 | F5解 | F5.1解 |
|---|---|---|---|
| 版 | 第4版 | 第5版 | 第5.1版 |
| 座標系 | ITRF2005 | ITRF2014 | ITRF2020 |
| GPS Block III | × | ○ | ○ |
| 対流圏推定 | 旧方式 | 改良 | F5と同一 |
| 固定点解析 | 旧方式 | 改良 | F5と同一 |
| アンテナPCV | 旧モデル | ITRF2014版 | ITRF2020版 |
| 国際整合性 | △ | ○ | ◎ |
| 絶対座標精度 | △ | ○ | ◎ |
| 相対座標精度 | ○ | ◎ | ◎ |
ひとことで言えば、F3→F5は解析技術そのものの世代交代、F5→F5.1は解析方式を保ったまま国際基準座標系をITRF2020へ更新した高精度化版です。
F3解(第4版・2009年開発、2021年3月まで)
最初に広く使われたのが F3解です。準拠座標系は ITRF2005、解析ソフトは Bernese 5.0。電子基準点「つくば1」を固定点とし、周辺の IGS 局からその座標を推定する方式でした。
ただし運用が長期化するなかで、いくつかの課題が見えてきました。
- GPS の新しい Block III 衛星に未対応。
- ITRF2005 が古く、最新の国際座標系との乖離が拡大。
- 東北地方太平洋沖地震後の大規模な地殻変動が十分には反映されにくい。
- 固定点解析の拘束点が少なく、座標安定性に課題。
- 高さ成分のばらつきが比較的大きい。
F5解(第5版・2021年4月運用開始)
F5解は、これらの課題に対する大幅な刷新でした。主な改良点は次の4つです。
- 解析ソフトウェアの更新:新しい Bernese 系ソフトへ更新し、GPS Block III 衛星を利用可能に。
- 準拠座標系の更新:ITRF2005 → ITRF2014(IGb14)。国際 GNSS 解析との整合と絶対座標の精度が向上。
- 対流圏遅延推定の高度化:上下成分のノイズが減り、高さの安定性が向上。
- 固定点座標計算の改良:世界中の IGS 局で「つくば1」を推定し(ステップ1)、それを固定して全国約1,300点を算出(ステップ2)の二段階方式に。IGS 解との整合が約±1cm程度まで改善。
この結果、絶対座標の精度と国際整合性が大きく改善し、相対座標の精度も向上しました。座標変換の前提となる JGD2024 の国家座標も、こうした国際基準と整合する形で構築されています。

F5.1解(第5.1版・2026年4月1日正式公開)
ここがポイントですが、F5.1解は「新しい解析方式」ではありません。解析ストラテジそのものは F5解を引き継ぎ、主に国際基準座標系の更新に対応したバージョンアップです。
変更された点
- 準拠座標系の更新:ITRF2014 → ITRF2020。IGS が利用する最新基準へ整合。
- アンテナ位相特性(PCV)モデルの更新:座標系更新に合わせ、IGS モデルを利用。国土地理院独自アンテナは再構築したモデルを使用。
- 初期座標モデルの更新:IGb14 → IGb20。速度や余効変動を考慮した最新モデルへ。
変更されなかった点
基線解析手法、二段階解析方式、対流圏遅延推定方式、解析ソフトウェア、基本パラメータは F5解から変更ありません。つまり「F5.1 = F5の解析手法 + ITRF2020対応版」と理解できます。
精度面での効果と、補正パラメータへの波及
F5.1解では、東西・南北・上下のいずれの成分でも IGS 解との整合性が改善し、特に絶対座標の見かけのばらつきが減少しました。一方で、国内基線ベクトルによる相対変位は F5解とほぼ同等のため、地殻変動監視・プレート運動解析・スロースリップ解析への影響は小さいとされています。
座標変換の実務面では、電子基準点座標から作られる地殻変動補正パラメータへの波及が関係します。実際、2026年度版のセミダイナミック補正パラメータの作成には F5.1解が使われています。ただし、測量作業での使い方そのものは変わらないとされています。

まとめ
GEONET の解析ストラテジは、F3解(ITRF2005)→ F5解(ITRF2014・解析技術の刷新)→ F5.1解(ITRF2020対応)と進化してきました。F5.1解は解析方式を保ったまま国際基準を最新化した高精度化版であり、絶対座標の整合性が改善する一方、相対変位は従来と同等です。GeoConverterPro で扱う座標や補正パラメータの「足元」がどう作られ、どう新しくなったかを押さえておくと、高精度変換の前提を取り違えずに済みます。
関連記事(参考情報)
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出典
- 国土地理院「新しい『電子基準点日々の座標値(F5.1解)』を公開します」 https://www.gsi.go.jp/denshi/denshi65021.html
- 国土地理院時報「電子基準点日々の座標値(F5解)」論文要旨 https://www.gsi.go.jp/REPORT/JIHO/vol134-abst-03.html
- 大野ほか「新しい電子基準点日々の座標値(F5.1解)の公開」測位航法学会(2025年11月) https://www.gnss-pnt.org/
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