
SXF(P21/SFC)の「測地座標系」は測地系のこと? — CAD製図基準の図面に緯度経度が書かれていない理由
違います。 SXFの仕様でいう「測地座標系」は、X軸を垂直(北)方向にとる軸の向きの話であって、JGD2011や旧日本測地系といった測地系(データム)のことではありません。SXFには測地系を書く欄そのものが無く、座標の単位はmmです。したがってP21やSFCのファイルを開いても、その座標がどの測地系のどの系なのかはファイルからは分かりません。ここを取り違えると、図面の座標を素直に信じて大きくずれます。
SXFとは何か——なぜ2つの拡張子があるのか
SXF(Scadec data eXchange Format)は、公共事業の電子納品でCADデータをやり取りするために作られた中間ファイル形式です。特定のCADソフトに依存せずに図面を交換できること、WTO政府調達協定を意識して国際規格に準拠していることが、開発の背景にあります。
物理ファイル形式は2つあります。
| 項目 | SXF(P21)形式 | SXF(SFC)形式 |
|---|---|---|
| 準拠 | ISO 10303-21(STEP/Part21) | SCADECが策定した国内専用形式 |
| 中身 | ISO 10303-202(STEP/AP202)のサブセット | フィーチャ仕様に基づく独自形式 |
| 拡張子 | .p21 |
.sfc |
| 位置づけ | CAD製図基準(案)で納品用と定められている | 打合せ段階の受け渡し |
| 特徴 | 長期保存に向く | ファイルサイズが小さく扱いやすい |
つまり中身の設計思想(フィーチャ仕様)は同じで、書き出し方だけが違う兄弟です。「P21で納品、SFCで打合せ」という使い分けは、DXFとDWGの関係よりも役割がはっきりしています。
仕様のバージョンはVer.1.0(平成12年)から始まり、Ver.2.0でラスタと等高線、Ver.3.0で図面表題欄と属性付加機構、Ver.3.1(平成19年)でクロソイド・弧長寸法の追加と属性付加機構の改訂、という経緯をたどっています。土木の線形にクロソイドが要るというのは、いかにも建設分野の標準らしい追加です。
本題——SXFの「座標」は3層になっている
SXFが扱う座標は、仕様上は次の2つだけです。
- 用紙座標 — 用紙上の位置。用紙の左下が原点。単位はmm
- 部分図座標 — 「部分図」の中での位置。単位はmm
SXFは、あらかじめ仮想の用紙を用意し、その上に部分図を配置する構造をとります。部分図は縮尺を持てるので、実寸で作った図形を「1/10で置く」といった表現ができます。土木の縦断図のようにX方向とY方向で縮尺が違う図も、部分図の尺度を別々に指定することで表せます。
そして、この部分図には2つの種類があります。複合図形定義の複合図形種別フラグで区別されます。
| フラグ | 種別 |
|---|---|
| 1 | 部分図(数学座標系) |
| 2 | 部分図(測地座標系) |
| 3 | 作図グループ |
| 4 | 作図部品 |
仕様書の説明はこうです——測量などでよく利用される、垂直方向をX軸とする座標系を「測地座標」と呼ぶ。通常使う、垂直方向をY軸とする座標系が「数学座標」。用紙座標は数学座標系です。
つまり「測地座標系」という言葉が指しているのは、平面直角座標系のX=北・Y=東という軸の取り方のことです。測地系(データム)でも、緯度経度でもありません。「測地」という語が測地系を連想させるので、いちばん誤解されやすいところです。

では、測地系はどこに書いてあるのか——「書く欄が無い」
無い、というのが答えです。
SXFのフィーチャ一覧を通して見ても、測地系・系番号・EPSGコードを保持する欄は用意されていません。図面情報として持てるのは図面表題欄(事業名・工事名・図面名・尺度・作成年月日・受注会社名・発注事業者名など)で、いずれも文字列です。
この構造はDXFに測地系情報が無いのとよく似ています。SXFはCADの図面交換のための形式であって、GISのデータ形式ではないからです。Shapefileの.prjがWKTで座標系を書くような仕組みや、LandXMLのCoordinateSystem要素にあたるものが、SXFには最初から存在しません。
ただし、まったく手がかりが無いわけではありません。
- 図面表題欄・図面中の文字要素:「第◯系」「世界測地系」といった記述が図面に書き込まれていることがあります。ただしこれは人が読むための文字であり、機械可読な属性ではありません
- 属性付加機構(Ver.3.0以降):作図グループの名称に命名規約を定めて図形に属性を付ける仕組みです。
ATRF(属性ファイル用・拡張子.safのXMLができる)・ATRU(単一属性用)・ATRS(文字フィーチャ用)の3種類が規定され、「道路基盤地図情報交換属性セット」のような個別に策定された属性セットがこれを使っています。座標系の情報を持たせるとすれば、この個別の属性セットの側の話になります - 付随する電子納品の管理ファイル:図面管理ファイル側に座標情報が記録される運用もあります
いずれにせよ、「SXFファイルを開けば測地系が分かる」ということはない、というのが出発点です。
実務での手順——座標を使う前に確かめる3点
SXFで届いた図面から座標値を取り出して使いたいとき、次の3つを発注者・作成者に確認するのが安全です。
| 確認すること | なぜ必要か |
|---|---|
| 測地系(JGD2011 / JGD2024 / 旧日本測地系) | どれかによって同じ数値が最大400m以上ずれます |
| 系番号(第1〜19系のどれか) | 系が違えば座標値の意味が変わります |
| 座標値の単位と桁 | SXFの部分図座標はmm。図面上の数値と実座標の対応を取り違えないため |
3つ目は見落としやすいところです。SXFの座標は仕様上mmで実寸を保持します。平面直角座標の値をそのまま扱っているように見えても、桁の解釈は運用に依存するので、既知点の座標と突き合わせて確かめるのが確実です。
測地系が分からない図面が出てきたときは、既知点とのズレ量から測地系を推定する手が使えます。旧日本測地系なら数百m規模の系統的なずれとして現れるので、判別自体は難しくありません。旧測地系と分かった後の変換については、古い図面の座標を世界測地系へそろえるを参照してください。

まとめ
- SXFの「測地座標系」はX軸を北にとる軸の向きの話で、測地系(データム)ではない
- P21とSFCは同じフィーチャ仕様の書き出し方違い。納品はP21、打合せはSFCという役割分担
- SXFには測地系・系番号を書く欄が無い。表題欄や図中の文字は人が読むための情報にすぎない
- Ver.3.0以降の属性付加機構を使った個別の属性セット(道路基盤地図情報など)が、属性を持たせる唯一の道筋
- 座標を使う前に、測地系・系番号・単位と桁の3点を必ず確認する
CAD図面の座標を平面直角座標系や旧日本測地系へそろえる作業は、GeoConverter Pro(GCVP)でも扱えます。ただし、変換の前に「これは何の座標か」を決めるのは人の仕事です。SXFはその答えを持っていません。
出典
- 国土技術政策総合研究所 国総研資料 第403号「3. CADデータの交換標準SXF」 https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0403pdf/ks0403009.pdf
- オープンCADフォーマット評議会「2011年度版 SXF技術者リファレンスブック 第3章 SXFの解説」 http://www.ocf.or.jp/sxf/pdf/referencebook/2011/reference_book_03_2011.pdf
- オープンCADフォーマット評議会 https://www.ocf.or.jp/
記載は2026年8月時点の公表資料に基づきます。SXFの仕様・実装規約は改訂されることがあるため、実際の運用では適用する版の仕様書をご確認ください。
次に確認する
- DXFに測地系情報が無いときの伝え方を確認する — 同じ問題を別のCAD形式で扱った回です
- LandXMLで測地系がどう書かれるかを確認する — 座標系を書く欄がある形式との対比になります
- 平面直角座標のX・Yの順序で起きる取り違えを確認する — SXFの「測地座標系」が指しているものの本体です
- 平面直角座標系の19の系を地図で確認する(GeoPrism JP) — 系番号がどこを指しているかを図で見られます
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第13章「座標データの落とし穴」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
お願い
本記事の情報は参考目的で掲載しており、正確性・完全性を保証するものではありません。誤記・不正確な情報がございましたら、コメント欄よりご指摘いただければ、確認のうえ修正いたします。
コメントを残す