
農地の筆ポリゴンの座標系はどれ? — 平面直角座標系から経緯度へ変わった理由と、IDに座標が埋まっていた時代の落とし穴
IDに座標が入っていました。
ダウンロードした農地データを開いたら、隣の市町村のファイルと数字の桁がまるで違う——農林水産省の筆ポリゴンでよくある戸惑いです。では、このデータの測地系と座標系は何なのでしょうか。
答えは測地系がJGD2011(日本測地系2011)、座標系は経緯度です。ただしこれは2022年4月以降に公開されたファイルの話で、それ以前に配られたファイルは平面直角座標系のシェープファイルでした。そして両者を分けているのは、座標系だけではありません。古いほうは、IDそのものに座標値が埋め込まれていました。
まず結論——いま配られているファイルの仕様
農林水産省統計部が公開している筆ポリゴンには、2種類のファイルが存在します。仕様は同省が公表している「筆ポリゴンデータの仕様変更(ID等の属性情報、座標系等)について」に明記されています。
| 項目 | ウェブサイト版(2021年7月以前) | 公開サイト版(2022年4月以降) |
|---|---|---|
| 測地系 | 日本測地系2011(JGD2011) | 日本測地系2011(JGD2011) |
| 座標系 | 平面直角座標系 | 経緯度座標系 |
| 筆ポリゴンID | 都道府県コード・座標系・重心点座標を組み合わせた18桁 | UUID version 4(32桁の英数字) |
| ファイル形式 | シェープファイル | GeoJSON |
| 格納単位 | 市町村 | 市区町村 |
測地系は前後で変わっていません。変わったのは座標系(平面直角 → 経緯度)と、IDの作り方です。ここを混同すると「測地系が変わったから座標がずれた」という誤った原因究明に走ることになります。ずれていません。同じJGD2011の座標を、別の表し方で書いているだけです。
なお、令和8年度データが公開サイトに追加されたのは2026年5月26日です(本記事の内容は2026年9月時点の公表資料に基づきます)。
なぜ平面直角座標系をやめたのか
同省の資料には、理由が一行で書かれています。
全国分の筆ポリゴンをまとめて同一マップ上に整理するために、座標系を平面直角座標系から経緯度座標系に変更しています。
これは、平面直角座標系の性質そのものが理由です。日本の平面直角座標系は19の系に分かれていて、系が違えば同じX・Yの値が別の場所を指します。市町村ごとにファイルを配ると、隣り合う市町村が別の系に属することが普通に起こります。そのまま全国分を積み上げると、同じ座標値を持つ農地が全国に何枚も重なることになる。

系がどう分かれているかは平面直角座標系1〜19系の早見表にまとめています。都道府県が2つ以上の系にまたがる例は珍しくありません。
経緯度に統一すれば、全国のファイルを何も考えずに重ねられます。オープンデータとして「まず開けること」を優先した判断だと読めます。
IDに座標が埋まっていた——18桁が壊れた理由
ここが本題です。旧仕様の筆ポリゴンIDは、こういう作りでした。
都道府県コード、座標系、重心点座標を組み合わせた文字列(18桁の符号・数値)
IDの中に、座標系の番号と重心点の座標が入っている。識別子としてはとても分かりやすい設計です。ファイル名を見なくても、IDを見れば「何系のどのあたり」が分かる。
しかしこの設計には、決定的な弱点があります。同省の資料はこう書いています。
重心点の座標値を用いて ID を作成するため、一部の筆ポリゴンにおいて、筆ポリゴン ID の重複が見受けられる等の課題がありました。
座標を丸めてIDにすると、近い2枚が同じIDになる。細長い農地が並んでいる場所や、区画が小さい場所では、丸めた重心が一致してしまいます。
そこで2022年4月以降は、UUID version 4(例:4fac03f2-2f5f-4c80-b882-911541a01fb7)に変わりました。しかも形状変更の有無にかかわらず、毎年すべての筆ポリゴンに新しいUUIDを付け直します。
座標変換の側から見ると、これは決定的な話
座標を扱う立場でこの変更を見ると、教訓は1行にまとまります。
位置から識別子を作ってはいけない。
理由は3つあります。
- 座標系を変えるとIDの意味が壊れる。旧IDには「座標系」が入っているので、平面直角から経緯度へ再投影した瞬間、IDに書かれた系番号と中身の座標が食い違う
- 測地系を変えても同じことが起きる。JGD2011からJGD2024へ動かせば重心点も動く。IDを作り直せば別のIDになり、作り直さなければ中身と合わない
- 丸めた桁の下で衝突する。座標は連続量なので、有限桁に落とせば必ず衝突しうる
同じ罠は農地データに限りません。座標を文字列にして主キーにする設計は、法務局や自治体のデータでもときどき見かけます。桁の丸めがどこで効くかは座標値の浮動小数点精度の回でも扱いました。
重心点の座標は「PostGISで計算した値」と書いてある
現行仕様の属性には、重心点の座標が2列入っています。
| 属性 | 内容 |
|---|---|
polygon_uuid |
筆ポリゴンID(UUID v4) |
land_type |
耕地の種類(100:田、200:畑)。衛星画像等の目視判読による判断 |
issue_year |
公開年度 |
edit_year |
調製年度(新規作成・更新した年度) |
history |
過去に公開した筆ポリゴンとの関係(JSON形式) |
last_polygon_uuid |
前年と形状が全く同じ場合のみ、前年のID。異なればNull |
local_government_cd |
全国地方公共団体コード(6桁) |
point_lng / point_lat |
重心点の経度・緯度。10進法で小数点以下9桁 |
このpoint_lng / point_latについて、仕様書は算出方法まで明記しています。
PostgreSQL の拡張モジュール PostGIS の ST_Centroid 関数で計算した重心点
つまり、経緯度のままST_Centroidを掛けた値です。ここは意識しておく価値があります。ST_Centroidは入力ジオメトリの座標系で平面的に重心を計算するので、経緯度(度)のまま渡せば「度の空間での重心」になります。日本の農地のサイズなら実用上の差は無視できますが、「地表面上の重心」と厳密に同じものではないという理解でいてください。PostGISでの座標系の扱いはST_TransformとST_SetSRIDの違いにまとめてあります。
小数点以下9桁という指定も見ておきましょう。緯度1度はおよそ111kmなので、9桁は0.1mm前後の分解能です。農地の区画情報としては明らかに過剰な桁ですが、UUIDと違ってこちらは丸めずにそのまま持っているということでもあります。
経緯度になったせいで、面積が直接測れない
実務でいちばん困るのはここです。経緯度のポリゴンに面積計算をそのまま掛けてはいけません。
緯度経度は角度であって長さではないので、そのまま多角形の面積公式に入れると「平方度」という意味のない数字が出ます。GISソフトによっては黙って計算して、それらしい数値を返してきます。
やり方は2つです。
- 平面直角座標系に投影してから面積を測る。日本国内ならこれが標準。系の選び方と、縮尺係数が距離・面積に効く量は平面直角座標系の縮尺係数にまとめました
- 楕円体面上の面積を計算する関数を使う(PostGISなら
geography型のST_Areaなど)。系をまたぐ広域の集計ではこちらが素直です
つまり、配布形式が経緯度になったことで、面積を出したい人はどのみち平面直角へ戻す必要があるわけです。「全国を重ねて見る」と「面積を測る」で最適な座標系が違う——筆ポリゴンの仕様変更は、その事情をきれいに映しています。面積を平面直角座標系で測る手順そのものは面積計算と平面直角座標系の回にあります。
仕様書が自分で書いている「合わないことがある」2つ
公的データを使うとき、提供側が自分で注記している限界は必ず読んでおきたいところです。筆ポリゴンには2つあります。
1. 地方公共団体コードは、実際の市区町村と一致しないことがある
local_government_cdは、重心点がどの行政区域に入るかで機械的に付けられます。仕様書には付与規則が3段階で書かれていて、(1)重心点が入る市区町村、(2)入らなければ区画が交差する行政区域、(3)それでも決まらなければ目視、という順です。そして注記がこう続きます。
上記の付与規則に基づき、便宜的に付与しており、実際のほ場の属する市区町村と筆ポリゴンに付与している地方公共団体コードが一致しない場合があることにご留意ください。
市町村境をまたぐ農地では、コードと実態がずれます。市町村単位で集計する処理を書くなら、ここは仕様として飲み込んでおく必要があります。
2. サイト上の形は、ダウンロードした形と違うことがある
筆ポリゴン公開サイトのマップ表示について、農林水産省はこう書いています。
ウェブサイトでより円滑に画面表示するため、区画形状を単純化している場合があります(ダウンロード用データとは、区画形状が一部異なる場合があります。)。
画面で見た形と、手元に落とした形が違う。面積や境界を議論するときは、必ずダウンロードデータのほうを根拠にしてください。
手元のファイルがどちらの版か見分ける
古いファイルが混ざっているとき、開かずに判別する手がかりです。
| 見るところ | ウェブサイト版(平面直角) | 公開サイト版(経緯度) |
|---|---|---|
| 拡張子 | .shp 一式 |
.geojson |
| 座標値の桁 | 数万〜数十万(メートル)、負の値も出る | 35.6xxxxxxx 139.7xxxxxxx の形 |
| ID | 18桁の数字列 | ハイフン入りの32桁英数字 |
| 属性名 | 日本語(「耕地の種類」など) | アルファベット(land_type など) |
座標値の桁を見るのがいちばん速い判定です。経緯度なら整数部が2桁か3桁、平面直角なら原点からのメートルなので桁が跳ね上がり、原点の南や西では負になります。シェープファイルに.prjが付いていれば座標系が書かれていますが、.prjが無いシェープファイルも現実にはよくあります。
まとめ
- 筆ポリゴンの測地系はJGD2011。ウェブサイト版・公開サイト版のどちらも変わらない
- 座標系は2022年4月に平面直角座標系から経緯度座標系へ変わった。理由は「全国分を同一マップ上に整理するため」と明記されている
- 旧IDは都道府県コード+座標系+重心点座標の18桁で、重複が発生したためUUID v4へ変更された。毎年すべてに新しいUUIDが振り直される
point_lng/point_latはPostGISのST_Centroidで計算した重心、小数点以下9桁- 経緯度のまま面積を測ってはいけない。平面直角へ投影するか、楕円体面の面積関数を使う
- 仕様書自身が「地方公共団体コードは実態と一致しないことがある」「サイト表示の形状はダウンロードデータと異なることがある」と注記している
座標系を変えた本当の理由は、「同じ数字が別の場所を指してしまうから」です。平面直角座標系の19の系は、それぞれの中では完璧に機能します。破綻するのは、系をまたいで積み上げようとした瞬間だけ。筆ポリゴンが経緯度へ移ったのは、日本のオープンデータが「県内で使う地図」から「全国を1枚で見るデータ」へ移った、その記録でもあります。

GeoConverter Pro(GCVP)は、経緯度と平面直角19系のあいだの変換を、CSVでまとめて処理できるアプリです。筆ポリゴンの重心点座標を系別に振り分けたいときのように、同じデータを別の座標系で見直す場面のための道具です。
https://apps.apple.com/jp/app/geoconverter-pro/id6761740960
出典
- 農林水産省「農地の区画情報(筆ポリゴン)のデータ提供・利用」 https://www.maff.go.jp/j/tokei/porigon/
- 農林水産省「筆ポリゴンデータの仕様変更(ID等の属性情報、座標系等)について」 https://www.maff.go.jp/j/tokei/porigon/attach/pdf/index-36.pdf
- 農林水産省「筆ポリゴン公開サイト」 https://open.fude.maff.go.jp/
筆ポリゴンの仕様は改定されることがあります。本記事の記述は2026年9月時点で公表されている資料に基づくものです。実際に利用する際は、農林水産省の最新の仕様書と利用規約をご確認ください。
次に確認する
- 平面直角座標系の19の系がどこに適用されるかを確認する — 市町村が別の系に分かれる理由の話です
- 経緯度のデータから面積を出す手順を確認する — 筆ポリゴンで面積を集計するときに必要になります
- PostGISでST_TransformとST_SetSRIDを取り違えたときの症状を確認する — 重心点の算出に使われている道具の側の話です
- 法務局の登記所備付地図XMLの座標系がどう書かれているかを確認する — 同じ「土地の区画データ」でも系の持ち方が違います
- 同じ緯度経度の数字が測地系で別の場所を指す量を図で確認する(GeoPrism JP) — 「測地系は変わっていない」がなぜ重要なのかの回です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第13章「座標データの落とし穴」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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