
バス停の緯度経度、測地系はどれ? — GTFS-JP v4が初めて書いたWGS84と、「JGD2024でも差し支えない」という一文
WGS84です。
自治体から渡されたバス停一覧を開いて、緯度経度の列を見たとき——その数字が何を基準にしているか、どこかに書いてあったでしょうか。GTFS-JPの仕様書はこの点に長く沈黙していました。測地系が明記されたのは2026年3月策定の第4.0版からで、それ以前の版には記述が一切ありません。ただし、v4を開いても「測地系」という言葉は最後まで出てきません。
いま参照すべき仕様書はどれか
国土交通省の公共交通運行情報標準データ(GTFS-JP)のページを開くと、最新の仕様書として示されているのは次の1本です。
| 版 | 正式名称 | 時期 |
|---|---|---|
| v4(第4.0版) | 公共交通運行情報標準データ仕様(GTFS-JP) | 令和8年3月(改版履歴の作成日は2026年3月19日) |
| v3 | 標準的なバス情報フォーマット 第3版 | 2021年7月 |
| v2 | 同 第2版 | 2019年3月 |
| 初版 | 同 初版 | 2017年3月 |
v3以前はアーカイブ扱いになりました。「標準的なバス情報フォーマット」という呼び名から「公共交通運行情報標準データ仕様」へ、名称そのものが変わっています。対象もバスだけでなく鉄道・旅客船・デマンド型交通・シェアモビリティに広がりました。
v4の答え——データ型「緯度・経度」の1節に集約されている
v4の仕様書で測地系を決めているのは、個々のフィールドの説明欄ではありません。第4章「データ型」の4.17「緯度・経度」という、たった数行の節です。
・WGS84 の緯度・経度を 10 進数の度単位の値で設定すること。度分秒単位としないこと。
(例)[正]35.427778 [誤]35 度 25 分 40 秒
・JGD2024(JGD2011 を含む)の緯度・経度と WGS84 の緯度・経度の差は実用上無視できる範囲であることから、JGD2024 の緯度・経度を使用して差し支えない。
・駅・停留所・港の位置情報は 4m 以内の精度が求められていることから、小数点以下の桁数は 5 桁以上とすること。
3行で3つのことが決まっています。
- 測地系はWGS84。度分秒はダメで、10進度で書く
- JGD2024(JGD2011を含む)で書いてもよい。理由は「差が実用上無視できる」から
- 小数点以下5桁以上。根拠は「4m以内の精度」

2行目の「差し支えない」は、実務にとってかなり大きい許可です。日本でバス停の座標を集めるとき、多くの人は地理院地図で位置を拾います。地理院地図の座標は測地成果2011(JGD2011)です。そのまま書いてよい、と仕様書が明言してくれたわけです。
なお、この一文には脚注が付いており、参照先は国土地理院の測地基準系のページです。「実用上無視できる」の根拠を仕様書が自分で示している形になります。
「測地系」という言葉は一度も出てこない
面白いのは書き方です。v4仕様書の本文を検索すると、「測地系」「世界測地系」「日本測地系」「座標系」「EPSG」はいずれも0件です。出てくるのは「WGS84」「JGD2024」「JGD2011」という固有名だけ。
つまり用語ではなく実名で規定している。読む側からすると、「測地系」で検索しても何も出てこないのに測地系はちゃんと決まっている、という状態です。stops.txtの節だけを見て「測地系の指定がないな」と判断すると取り違えます。
stops.txt側には何が書いてあるか
では stop_lat / stop_lon のフィールド説明欄には何が書かれているか。測地系ではなく、「どこの位置を指すのか」が書かれています。
| location_type | 何の座標を入れるか |
|---|---|
| 0・空・4 | プラットフォーム、標柱等の乗客が車両に乗車する位置の座標。車両が停車する道路や線路の上としない |
| (標柱がない場合) | 標柱がなくても乗り場=実際に乗降する場所の位置 |
| 1 | 駅舎・ターミナル等を代表する点 |
| 2 | 出入り口の位置 |
加えて値の規則が2つ。
- 緯度・経度を10進数の度単位で設定し、小数点以下5桁以上とする
- 座標の精度は4m以内とすることを推奨する
「車道の真ん中に打たない」は、経路検索の徒歩ルートが破綻するため実務的にかなり効きます。
5桁以上、はどこから来た数字か
緯度で0.00001度は約1.1m、経度でも北緯35度付近なら約0.9mです。小数5桁で1m級。だから「4m以内」という要求に対して5桁が下限になります。
ここは他の標準と比べると差が見えます。
| 標準 | 桁数の規定 | おおよその分解能 |
|---|---|---|
| GTFS-JP v4(GTFS Schedule部) | 小数点以下5桁以上 | 約1m |
| GTFS-JP v4(GBFS部・シェアモビリティ) | 小数点以下6桁の精度を推奨 | 約0.1m |
| デジタル庁 DS-444(行政データの地理座標) | 小数点以下6桁が原則 | 約0.1m |
同じ1冊の仕様書の中でもGTFS Schedule部とGBFS部で桁数の規定が違います。バス停は1m級で足りるが、シェアサイクルのポートや車両位置は0.1m級で書く、という用途の差がそのまま出ています。
なお、shapes.txt の shape_pt_lat / shape_pt_lon には桁数も精度も書かれていません。データ型「緯度・経度」の規定(WGS84・10進度)はかかりますが、「5桁以上」は4.17の文面上「駅・停留所・港の位置情報は」と限定されているため、経路形状の点に直接かかるとは読めません。実例は6桁で書かれています。
v3から何が変わったか(座標まわり)
差分資料が明快です。
- データ型の規定そのものがv4の新設。差分表のv3欄は「(記載なし)」。つまりv3にはWGS84もJGDも書かれていなかった
- v3のstop_latの説明は「標柱は標柱が設置されている場所の緯度経度を地理院地図等の地図サービスから取得。又はGPS機器を用いて実測し設定」という取得手段の記述だった
- v4はその取得手段の記述を仕様書本体から外し、「何の位置を指すか」+「10進度・5桁以上・4m以内」という値の規則に置き換えた。地理院地図の話は技術解説書のほうへ移った
座標以外でも、stops.txt では location_type が任意→必須、parent_station が任意→条件付必須になり、location_type の値も0/1の2値から0〜4に増えました。ファイル単位では shapes.txt が任意→条件付必須へ。既存データをv4に合わせるなら、座標そのものより先にここで手が要ります。
技術解説書のほうが実務的
「地理院地図で拾う」という話は、v4では技術解説書(第2編)に移りました。こちらの記述が現場向けです。
- 既存資料に座標がない場合は、地理院地図、グーグルマップ等のウェブ地図上で座標を取得する
- 鉄道駅の乗り場の座標は地理院地図で取得することを推奨
- Google乗換案内の品質審査ではストリートビューで標柱位置を確認されるため、ストリートビューで位置を確かめてからウェブ地図で座標を取ることを推奨
- ウェブ地図や経路検索サービスに表示されるバス停マークの座標をそのまま取得することは、地図の著作権侵害のおそれがある
- 既存リストの座標やGPS実測値を使う場合も、車道の真ん中や建物の中になっていないか必ず確認する
4つ目は、座標の話というより権利の話です。「地図上に表示されている点の位置をコピーする」のではなく、「現地の位置を確認してから、その位置の座標を地図で読む」という手順を踏め、ということになります。
仕様書が書いていない落とし穴

v4の3文書を通して、旧日本測地系(Tokyo Datum)に関する注意喚起は1行もありません。「測地系」という語自体が出てこないので当然ではあります。
しかしバス停の座標を集める作業では、古い路線図や過去のシステムから座標を引き継ぐ場面があります。旧日本測地系の値をそのままWGS84として書き込むと、日本国内でおおむね数百m、先島諸島では最大約612m(緯度経度差にして最大19.83秒)ずれます。1m級を要求している仕様に対して、桁が2つも3つも違う誤りです。
しかもこのずれは「5桁書けているか」というチェックでは絶対に検出できません。数字の形式は完全に正しく、場所だけが別の街区になります。経路検索に載って初めて「バス停が川の中にある」と気づく類のものです。
- 出どころの分からない座標は、まず地理院地図に重ねて目で確かめる
- 数百mずれているなら旧日本測地系を疑う。GeoConverter Proのような変換ツールで変換してから書き込む
- 変換後もストリートビュー・バス停位置図で乗り場の位置を確認する
まとめ
- GTFS-JPの最新版はv4(第4.0版・令和8年3月)。v3以前はアーカイブ
- 測地系はWGS84。JGD2024(JGD2011を含む)で書いても差し支えないと明記された
- これらの規定はv4の新設。v3には測地系の記述がなかった
- stops.txt は10進度・小数点以下5桁以上・精度4m以内推奨。5桁≒1m級で、4m以内という要求から逆算された下限
- 「測地系」という日本語は仕様書に一度も出てこない。WGS84・JGD2024という実名だけで書かれている
- 旧日本測地系の値を混ぜる事故については仕様書に注意書きがない。形式チェックでは通ってしまうため、作る側が気をつけるしかない
出典
- 国土交通省「公共交通政策:公共交通運行情報標準データ(GTFS-JP)に関する資料・検討会」 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000067.html
- 国土交通省 COMmmmONS「公共交通運行情報標準データ仕様(GTFS-JP)v4」 https://www.mlit.go.jp/commmmons/document/007/
- 同 v4 仕様書(第1編 仕様編) https://www.mlit.go.jp/commmmons/document/007/commmmons_doc_007-01_ver01.pdf
- 同 v4 技術解説書(第2編 技術解説編) https://www.mlit.go.jp/commmmons/document/007/commmmons_doc_007-02_ver01.pdf
- 同 v3等との差分 https://www.mlit.go.jp/commmmons/document/007/commmmons_doc_007-03_ver01.pdf
本記事の記述は2026年9月時点で公開されている資料に基づきます。引用はすべて上記の一次資料からのものです。仕様書は改訂されることがあるため、実際にデータを作成する際は必ず最新版をご確認ください。旧日本測地系のずれ量は当ブログで検証した変換結果に基づく値で、GTFS-JPの仕様書に記載されているものではありません。
次に確認する
- 行政データの緯度経度をどう書くかを確認する — デジタル庁DS-444が小数6桁・EPSG:6668と決めている側の話です
- WGS84とJGD2024が同じ座標といえるのかを確認する — 本記事の「差は実用上無視できる」の中身です
- 測地系が分からない座標をずれ量から見分ける方法を確認する — 出どころ不明の座標を受け取ったときの手順です
- 世界の測地系がどう違うのかを図で確認する(GeoPrism JP) — WGS84が世界の中でどの位置にある基準かを図で見る側の記事です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第13章「座標データの落とし穴」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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