
行政データの緯度経度、どう書けばいい? — デジタル庁DS-444が決めた小数6桁・EPSG:6668と、標高だけ別のEPSGを併記する理由
小数点以下6桁が原則です。
配布されたCSVを開いたら緯度が 35.676097、経度が 139.744879、座標系の列は無し——というファイルに当たったことがあると思います。ではこれ、どこまでが決まりで、どこからが作った人の裁量なのでしょうか。答えは「デジタル庁のガイドブックに、桁数もEPSGコードも書いてある」です。ただし標高だけは、緯度経度と別のEPSGコードを併記するよう求められています。
DS-444という文書
デジタル庁が出している「デジタル社会推進実践ガイドブック」のうち、DS-444「コアデータパーツ 地理座標」が地理座標の書き方を定めた文書です。現行版は2024年(令和6年)9月30日付。変更履歴を見ると、初版決定が2019年3月、2022年3月にGIFへの統合で体裁変更、そして2024年9月に標高と小数点以下桁数の記載内容を刷新しています。
つまり「桁数を6桁にする」という現在の書きぶりは、比較的新しい版で固まったものです。手元の資料が2022年版なら、桁数の記述はいまと違う可能性があります。
決まっていること
DS-444が原則として示しているのは、次の形です。
| 項目 | 原則 | 例 |
|---|---|---|
| 緯度 | 10進表記・小数点以下6桁。経度と別のデータ項目で持つ | 35.676097 |
| 経度 | 同上 | 139.744879 |
| 標高 | 単位はメートル、10進表記・小数点以下1桁 | 25.5 |
| 座標参照系 | JGD 2011/(B,L) を基本。別項目に、EPSGコードで記述 |
EPSG:6668 |
| 座標参照系(垂直方向) | 標高を使う用途では併記を推奨 | EPSG:6695 |
見落とされやすいのは、緯度と経度を1つの列にまとめないこと、そして座標参照系を値と同じ行に持たせることの2点です。「35.676097,139.744879」のような1列の文字列も、座標参照系の列が無いファイルも、この原則からは外れます。
なぜ6桁なのか
DS-444は理由をそのまま書いています。0.000001度(小数点以下6桁)あたりの距離は約0.1メートル(赤道直下の場合)であり、日常的な施設等の位置を示す用途にはこれで十分な精度だから、というものです。
ここには2つの例外があります。
- 6桁より細かいデータを丸める必要はない。 GNSSを利用した測位データなどは、用途に応じて適切な桁数を設定してよい。文書はその例として、電子国土基本図では測量に使うため9桁を用いていると書いています
- 測量データ等はそもそもDS-444の対象外。 「本書の示す標準と異なる精度でのデータ連携が必要になる地理座標データについては、本標準の対象となりません」と明記されています
したがって、測量成果のCSVを6桁に丸めて配る理由はどこにもありません。6桁は「行政事務で施設の位置を示す」用途の基準であって、位置精度の上限ではないわけです。
座標参照系を「別項目」にする理由
DS-444はISO 6709にも触れています。緯度経度を±で表し、高度と参照系まで1本の文字列に詰め込む書き方です。
+35.658581+139.745433+351CRSWGS_84/
この表記が可能であることを認めたうえで、「緯度経度及び参照系は別項目として記録することを推奨」としています。
ISO 6709を実際に使っている公的データを触ったことがあると、この推奨の重みが分かります。1本の文字列に詰め込むと、値を読むだけでパースが要る。桁の区切りが要素ごとに違う。そして基準の情報が、文字列の後半にあったり無かったりする。列に分けておけば、少なくとも「どの列を見れば基準が分かるか」で迷いません。
標高だけEPSGが別なのはなぜか

ここがDS-444のいちばん面白いところです。緯度経度は EPSG:6668 の1行で済むのに、標高には EPSG:6695 を別に併記せよという。理由は文書の解説節に書かれています。
標高の基準は平均海面であり、平均海面を仮想的に陸地へ延長した面がジオイドです。日本の標高は、「日本のジオイド2011(GSIGEO2011)」からの垂直方向の距離として定義されています。そして——
日本のジオイドは国土地理院によって定められた標高基準であり、国土地理院によって不定期に更新が行われる
更新されるからです。 だからDS-444は「使用する標高のデータがどの時点の高度情報であるかを解釈できるよう、垂直方向の座標参照系を明示することを推奨する」と続けます。
水平位置の基準は測地系の改定という大きな節目でしか変わりませんが、高さの基準はジオイドモデルの更新で変わります。同じ場所の標高が、モデルが変わっただけで別の数字になる。垂直CRSを書いておけば、その数字がどのモデル基準なのかが後から分かる——という設計です。
リアルタイム性が要るならITRFでもよい、ただし
もう1つ、DS-444は逃げ道を用意しています。
GPS、みちびき、Galileo等のGNSS(全球測位衛星システム)を利用した測位のようにリアルタイム性を重視するような場合には、ITRF(国際地球基準座標系)の使用も可能とします。
ただしそのすぐ後ろに条件が付きます。「ITRFを用いる場合には、あわせて地殻変動の補正が必要となります」として、国土地理院の座標補正サービスのURLが示されています。
受信機が返す座標は今期のITRF系、日本の公的な位置は元期のJGD2011。この2つを混ぜないための補正が要る、という話がガイドブック本文に1行入っている点は、地味ですが重要です。
「測定時期も管理する」
DS-444には、実装者が読み飛ばしがちな一文があります。
地理座標は、地震や地殻変動等で変化することがあるので、測定時期もあわせて管理します。
座標値に日付を添えろ、ということです。これは元期・今期の考え方をデータ設計の言葉に翻訳したもので、列がひとつ増えるだけで、後年の突き合わせが劇的に楽になります。
防災用途の特記事項
もうひとつ、本文の最後に短い特記事項があります。防災・減災に関する情報提供では、被災者支援の拠点になり得る学校や市庁舎等の公共施設について、MGRS(UTMグリッド地図)での表記も適宜検討する、というものです。理由は、陸上自衛隊や他国の軍組織間で国際的に利用されているためと書かれています。
平常時の行政データはEPSG:6668の10進緯度経度、災害時に他組織と共有する拠点情報はMGRSも——という二段構えです。
実務のチェックリスト
配布するデータを作るとき、あるいは受け取ったデータを点検するときに見る項目です。
- [ ] 緯度と経度が別の列になっているか
- [ ] 座標参照系の列があり、EPSGコード(原則
EPSG:6668)が入っているか - [ ] 桁数は6桁か。測量由来のデータを6桁に丸めていないか
- [ ] 標高があるなら、単位はメートル・小数1桁で、垂直CRS(
EPSG:6695)が併記されているか - [ ] 測定時期の列があるか
- [ ] ITRF系の値を、補正せずにJGD2011の欄へ入れていないか
まとめ
- デジタル庁 DS-444「コアデータパーツ 地理座標」(2024年9月30日版)が、行政データの緯度経度の書き方を定めている
- 原則は10進・小数点以下6桁、緯度と経度は別項目、座標参照系も別項目に EPSG:6668
- 6桁の根拠は「0.000001度=約0.1m(赤道直下)」。測量データは対象外で、電子国土基本図は9桁を使っている
- ISO 6709の一体表記も可能だが、別項目での記録を推奨
- 標高は単位メートル・小数1桁。ジオイドモデルが更新されるため、垂直CRS
EPSG:6695の併記を推奨 - リアルタイム用途ではITRFも可。ただし地殻変動の補正が必要と明記されている
- 座標には測定時期を添えて管理する
出典
- デジタル庁「デジタル社会推進実践ガイドブック DS-444 コアデータパーツ 地理座標」2024年(令和6年)9月30日 https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/fe5f0631-c978-42db-8416-6759cfa7e53a/54b95da8/20241001_policies_development_management_outline_02.pdf
- 国土地理院「地殻変動補正サービス」 https://positions.gsi.go.jp/cdcs/
本記事の記述は2026年9月時点で公開されているDS-444(2024年9月30日版)に基づきます。引用した文言は同文書本文のものです。ガイドブックは改定されることがあるため、実装にあたっては必ず最新版をご確認ください。個別のデータセットが本標準に従っているかどうかは、そのデータセットの仕様書で別途確認する必要があります。
次に確認する
- 気象庁XMLの震源座標がISO 6709でどう書かれているかを確認する — 1本の文字列に詰め込む方式の実例と、その読み方です
- 浮動小数点で座標を持つときにどこまで桁が保てるかを確認する — 6桁・9桁という話の下にある表現精度の問題です
- 楕円体高から標高への変換とジオイド2024の扱いを確認する — 垂直CRSを併記する理由の実務側です
- 楕円体高・ジオイド高・標高の関係を図で確認する(GeoPrism JP) — 3つの高さの違いを図で見る側の記事です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第13章「座標データの落とし穴」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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