
平面直角座標のXとYはどっちが北? — 測量とCAD/GISで入れ替わる軸の落とし穴
日本の測量では X が北、Y が東です。 数学やCAD・GISでおなじみの「x=横(東)、y=縦(北)」とは逆になっています。この取り違えは、変換に失敗したわけでもファイルが壊れたわけでもないのに、点群が原点をはさんで対角に飛ぶという形で現れます。原因を知らないと延々と測地系を疑ってしまうので、最初に覚えておく価値があります。
緯度と経度の順序(
lat, lonかlon, latか)の落とし穴は別記事で扱いました。本記事はその平面直角座標版で、度ではなくメートルの世界の話です。混同しやすいので、視点を分けて書いています。
日本の平面直角座標系の軸の決まり
測量法施行令にもとづく平面直角座標系では、各系の原点で次のように軸が決められています。
| 軸 | 向き | 正の方向 |
|---|---|---|
| X軸 | 原点を通る子午線に沿う(南北) | 北が正 |
| Y軸 | X軸に直交する(東西) | 東が正 |
つまり、X=北向き(northing)、Y=東向き(easting)です。「X, Y」と書いてあったら「北, 東」の順である、というのが日本の測量の作法です。
覚え方としては、測量の座標は「緯度・経度」と同じ順番だと考えると混乱しにくくなります。緯度(南北)が先で経度(東西)が後。平面直角座標も X(南北)が先で Y(東西)が後です。
一方、CAD・GIS・プログラミングの世界では
数学の直交座標は、x が右(東)、y が上(北)です。この流儀をそのまま引き継いでいるものが多数あります。
| 分野・形式 | 1番目 | 2番目 |
|---|---|---|
| 日本の測量成果・SIMA・点の記 | X(北) | Y(東) |
| 数学の直交座標 | x(東) | y(北) |
| DXF・多くのCAD | x(東) | y(北) |
| Shapefile のジオメトリ | 東 | 北 |
GeoJSON の coordinates |
東 | 北 |
WKT の POINT(...) |
東 | 北 |
同じ「1番目の数字」が、片方では北を、もう片方では東を意味している。これが取り違えの正体です。
さらにややこしいことに、EPSGコードとしての定義(例: JGD2011 / Japan Plane Rectangular CS の各系)では、軸の順序は northing, easting、つまり測量の流儀で登録されています。ところが実際のファイル形式やライブラリは、その定義を守らず「東, 北」で並べていることが多い。定義と実装がずれているため、「EPSGを指定したのだから大丈夫」とは言えません。
取り違えたときに何が起きるか
X と Y を入れ替えると、点は 45度の線(X=Y の直線)を軸に鏡像の位置へ移ります。実際の見え方はこうなります。
- 点群の形が裏返る。文字や記号の並びが鏡文字のようになる
- 敷地の縦横が入れ替わる。南北に細長い区画が東西に細長くなる
- 原点をはさんで反対側へ飛ぶ。系の原点より南(Xが負)で西(Yが負)の地域では、符号の組み合わせが変わるため大きく移動する
- 距離と面積は変わらない。鏡像なので、辺の長さも面積も同じ。数値チェックでは見つからない
最後の点が厄介です。距離が合っている=正しい、にはならない。図面に重ねて見るまで気づけないことがあります。
見分け方
| 症状 | 疑うもの |
|---|---|
| 数百km単位で飛ぶ・形は正しい | 系番号の取り違え(1〜19系の指定ミス) |
| 形が裏返る・距離と面積は合う | X/Yの取り違え |
| 全体が数百m平行移動する | 測地系の取り違え(旧日本測地系と世界測地系) |
| 数cm〜数十cmずれる | 補正パラメータの世代違い |
「形が裏返っているかどうか」がいちばん速い判定です。3点以上を反時計回り/時計回りで見比べると、すぐに分かります。
受け渡しで詰まらないための実務
1. ヘッダーに「北・東」を書く
CSVの列名を X, Y にすると、受け取った側は自分の流儀で読みます。northing, easting あるいは X(北), Y(東) のように向きを明記しておくと事故が減ります。
2. 測量成果は「X, Y」の順を崩さない
SIMAをはじめ、日本の測量データは X(北), Y(東)で並んでいます。CAD/GISに合わせて勝手に入れ替えると、次の受け渡しでまた混乱します。変換は「渡す直前に、渡す相手の流儀へ」行うのが安全です。
3. 既知点を1つ混ぜる
データの先頭に、座標が分かっている基準点を1点だけ入れておく。読み込んだ側がその1点の位置を見れば、軸の取り違えは即座に発覚します。
4. 符号で当たりをつける
日本の平面直角座標系は、各系の原点を中心に北がプラス・東がプラスです。X の絶対値がおおむね 0〜300km、Y の絶対値がおおむね 0〜130km の範囲に収まるのが普通なので、「1番目の数字のほうが大きいことが多い」という経験則は目安になります(原点近傍では成り立ちません)。

まとめ
- 日本の測量では X=北、Y=東。数学・CAD・GISの「x=東、y=北」とは逆
- GeoJSON・WKT・Shapefile のジオメトリは「東, 北」。EPSGの定義(北, 東)と実装がずれている
- 取り違えると点群は鏡像になる。距離も面積も変わらないので数値チェックでは見つからない
- 症状の切り分け: 数百km=系番号、裏返り=X/Y、数百m平行移動=測地系、数cm=パラメータ世代
- 対策は列名に向きを書く・測量成果の順序を崩さない・既知点を1点混ぜる
出典
- 国土地理院「わかりやすい平面直角座標系」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/jpc.html
- 国土地理院「測量法施行令第2条第2項の規定」関連ページ https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sokuchikijun41012.html
- OGC GeoJSON 仕様(RFC 7946) https://datatracker.ietf.org/doc/html/rfc7946
座標値の取りうる範囲は各系の原点位置に依存する概略の目安です。仕様の記載は2026年8月時点のものです。
次に確認する
- 自分の現場が何系かを確認する — 「数百km飛ぶ」ときに最初に見るのがここです
- 緯度・経度の順序を取り違えるとどうなるかを確認する — 本記事の度単位版。合わせて読むと事故の型が揃います
- 測地系が分からないデータをズレ量から見分ける手順を確認する — 「数百m平行移動」の切り分けです
- SIMAデータの中でX・Yがどう並んでいるかを確認する — 測量業界標準フォーマットの実物です
- 平面直角座標系19系がどう分けられているかを図で確認する(GeoPrism JP) — 系の原点と軸の関係が図で分かります
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第13章「座標データの落とし穴」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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