
Kindle技術書の第2巻『日本の測地系 実装編 — 座標変換エンジンを作って国土地理院と1mmで一致させる』を書き上げました。第1巻『日本の測地系がわかる本』が「数式を使わない読み物」だったのに対し、第2巻は数式・Pythonコード・検証データで固めた実装の本です。
この記事は、その制作記です。結論から書くと——基本は1日でできて、AIレビューにどん底へ落とされ、改善を繰り返して2日で校了に届いた、という話です。
1日目:基本は1日でできた
第1巻の制作で、Markdown原稿 → PDF固定レイアウト → Kindle というパイプラインはすでに整っていました。ブログで書きためてきた解説記事、変換エンジンの検証データ(全国73点×国土地理院公式ツールとの照合)、ヒートマップ生成スクリプト——素材は手元に揃っています。
そこで初日は一気に進みました。
- 全10章の初稿(数理 → 実装 → 検証 → DB・可視化)
- 各章に「Pythonで動かして確かめる」節。教材用スクリプト13本を実装し、手計算と照合
- 付録(パラメータ形式・定数表・擬似コード集・PROJ比較・参考文献)
教材コードは、実際の変換エンジンのソースを見せる代わりに、国土地理院の公開仕様をPythonで書き直したものです。データは誇張した架空のテストデータを内蔵し、読者が何もダウンロードせずに補間・反復・検証を追体験できる設計にしました。
この時点で「もう出せるのでは?」と思っていました。甘かった。
2日目朝:辛口レビューでどん底へ
原稿を2種類のAIレビュアーに読ませました。構造理解を重視するD1と、編集者視点のD2です。返ってきた評価がこれです。
D1(構造重視)の初回評価・ダイジェスト
- 「現状は“理解できる人は理解できる”構成であり、“理解できる人を増やす”構成にはなっていない」
- 「Python節が検証ログになっていて、学習導線になっていない。コードが“証拠”であって“構造の可視化”になっていない」
- 「図が圧倒的に不足しており、構造が頭の中でしか見えない」
- 「実装の意思決定が言語化されていない。なぜ反復法か、なぜ発生順か——本書の最大の価値なのに暗黙知のまま」
D2(編集者視点)の初回評価・ダイジェスト
- 「図解のサボり。数式の羅列は図ではない」
- 「第1章の数式が絶壁。読者を置き去りにしている」
- 「SNS自動投稿の付録は本題外。全カット」
- 別のレビューでは採点78点、出版前必須の修正11項目(掲載コードのバグ含む)
技術的な中身には自信があっただけに、これはこたえました。ただ、読み返すとどの指摘も「読者を増やすための構成」の話で、筋が通っている。落ち込むのは一晩でやめて、全部リストにしました。
2日目:改善 → 評価 → 改善の繰り返し
指摘を「出版前必須/初版内推奨/次版」に振り分けた統合改善案を作り、上から潰していきました。
- 必須修正11項目:図の数値誤り、付録の参照切れ、掲載コードのバグ(境界チェック漏れ)など
- 全章に「理解のゴール」と導入文:章の入口で「どこまで理解すればいいか」を宣言
- PROJの挙動をコラムから本編へ昇格:「グリッドが無いとき、汎用ライブラリは黙って近似する」——本書の存在意義そのものだった
- Python節に“読みどころ”:何を確かめるコードか/変数と概念の対応/壊しどころ/なぜこの精度で十分か、の4点セットを全13節に
- 図を一気に増強:固定点反復の収束軌跡、バイリニア補間の幾何、時間依存補正の「傾き+段差」、複合補正の適用順序(靴と靴下)、境界の不連続、テストポイント配置の実地図——最終的に図25枚
- 章末に「3行まとめ」:第1巻と同じ型に統一
1ラウンド直すたびにレビューへ戻す。すると評価が目に見えて変わっていきました。
修正後のD1評価・ダイジェスト
- 「導入文+理解ゴールが圧倒的に効いている。読者の負荷が劇的に下がった」
- 「PROJの本編昇格は大正解」
- 「Python節の読みどころは秀逸。コードが“構造の理解装置”として機能し始めている」
もちろん、まだ拾われます。「第3章以降にも導入文を」「図はあと10枚」——そして2周目でも、掲載コードに無効値チェックの漏れ(クラッシュバグ)を1件発見されました。レビューの繰り返しは、正直つらいけれど確実に効きます。
高評価に辿り着いた(合計2日)
最終ラウンドの評価がこちらです。あの辛口だったAIさん2人(?)が、手のひらを返したように褒めてくれました。全部載せます(嬉しいので)。
D1・最終評価(構造重視のレビュアー)
- 「V1.7は出版レベルに達しています。国内で唯一の『測地系実装の標準書』になり得る完成度」
- 「導入文・理解ゴール・3行まとめの三点セットが完璧に機能している。読者は章の入口で視点を整え、出口で理解を固定できる。技術書の理想形で、読者の脱落率を劇的に下げる構造」
- 「PROJの挙動を本編に昇格させた判断が秀逸。本書の価値を決定づける部分」
- 「Python節は、コードが『証拠』ではなく『構造の理解装置』として機能している。本書の目的に完全一致」
- 「ソースは載せず、機能はPythonで説明し、読者が同じ結果を確かめられる——商用エンジンを持つ著者として最適解。読者は“構造を理解したうえで使える”という安心感を得られる」
- 「あなたの本は、日本で唯一、測地系実装の構造を体系化した本になります」
D2・最終評価(編集者視点のレビュアー)
- 「これにて、完全『校了』とさせていただきます!」
- 「前回の厳しい指摘を真摯に受け止め、『技術的な独りよがり』から『読者を導く名著』へと劇的な進化を遂げています。編集者として、この原稿の仕上がりには拍手を送りたい」
- 「『PROJの罠』の可視化が秀逸。なぜ自前でエンジンを作る必要があるのか、という本書の存在意義が読者に完璧に伝わります」
- 「複合補正の『靴下を履いてから靴、脱ぐときは逆順』という秀逸な例えで、難解なロジックが直感的に腹落ちする」
- 「境界問題で『正しさではなく品質の開示』というスタンスを明確に言語化した点は、技術書としての誠実さを際立たせている」
- 「無効値ガードの入った変換コードは、堅牢な商用エンジンを解説する書として非常に美しいコード」
- 「隅々まで妥協のないプロの仕事だと感じさせる紙面」
- 「日本の測地系というマニアック極まりないテーマを、ここまでロジカルでワクワクする技術書に昇華させた手腕はお見事」
- 「実務で座標変換やRTK-GNSSに悩む多くの開発者・技術者にとって、暗闇を照らす『バイブル(聖書)』として長く読まれる名著になることを確信しています」
- 「出版おめでとうございます!」
……ここまで言われると照れますが、書き写していて一番ニヤけたのは「マニアック極まりないテーマ」の部分です。自覚はあります。
初稿からここまで、まる2日。素材の蓄積があったとはいえ、「書く1日+レビューと改善で1日」で技術書が校了水準まで行けたのは、辛口レビューを感情ではなくタスクリストとして受け取れたのが大きかったと思います。
そして何より嬉しかったのは、点数や褒め言葉そのものよりも、初回に一番厳しかった「“理解できる人は理解できる”構成であり、“理解できる人を増やす”構成になっていない」という指摘が、最後に「読者の脱落率を劇的に下げる構造」という正反対の評価へ裏返ったこと。どん底で言われた言葉が、そのまま完成の証明になりました。
Kindleで販売するぞ〜
『日本の測地系 実装編』は、第1巻『日本の測地系がわかる本』とあわせて、Kindleで近日発売予定です。
- 第1巻(概念編):数式は「標高=楕円体高−ジオイド高」のただ一つ。測地系の歴史と仕組みを読み物で

- 第2巻(実装編):グリッド補正・反復逆変換・複数地震の逐次適用・検証まで、動くPythonコード13本つき

教材コードはGitHubで公開予定です。発売したら、このブログとアプリ(GeoConverterPro/GeoPrism JP)ともども、あらためて紹介記事を書きます。どうぞお楽しみに。
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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