
LASファイルに座標系は書いてある? — 点群のVLRに入るGeoTIFFキーとWKT、そして整数座標のからくり
「書ける場所はある。ただし書いてあるとは限らない」が答えです。 LASは可変長レコード(VLR)という領域に座標系の定義を持てるフォーマットで、古い版はGeoTIFFキー、LAS 1.4からはOGC WKTが本命になりました。DXFのように「書く場所がそもそもない」形式とは違います。ところが実務で受け取る点群は、この領域が空だったり、平面直角座標系だけ書いてあって高さの基準が書かれていなかったりします。
LASファイルは4つのかたまりでできている
LAS(ASPRS LASer File Format)は、レーザースキャナやUAVレーザーで得た3次元点群を交換するためのバイナリ形式です。LAZはこれを可逆圧縮したもので、中身の構造は同じと考えて構いません。
| 部分 | 中身 |
|---|---|
| Public Header Block | 版番号、点数、点データのフォーマット番号、座標のスケールとオフセット、Global Encoding などの共通情報 |
| Variable Length Records(VLR) | 座標系定義をはじめとする付加情報。ヘッダ直後に並ぶ |
| Point Data Records | 点そのもの。X・Y・Zは符号付き32ビット整数で格納される |
| Extended VLR(LAS 1.4以降) | ファイル末尾に置ける大きな付加情報 |
座標系の話は、このうちVLR(とEVLR)に集約されています。
座標系はVLRの「LASF_Projection」に入る
座標系を書き込むVLRは、User ID が LASF_Projection と決められています。その中でRecord IDによって書き方が分かれます。
| Record ID | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 34735 | GeoKeyDirectoryTag(GeoTIFFのキー本体) | LAS 1.3以前の標準。EPSGコードなどをキー番号で指定する |
| 34736 | GeoDoubleParamsTag(実数パラメータ) | 上のキーが参照する数値 |
| 34737 | GeoAsciiParamsTag(文字列パラメータ) | 上のキーが参照する名前 |
| 2111 | OGC Math Transform WKT | 座標系に適用する変換の記述(使用例は多くない) |
| 2112 | OGC Coordinate System WKT | LAS 1.4で本命になった座標系記述 |
libLASのLAS 1.4向け解説によれば、GeoTIFFキー方式には「EPSGデータベースに依存し拡張が難しい」「測地系間の変換(WKTのTOWGS84相当)を表現できない」といった弱点があり、そのためLAS 1.4では表現力の高いOGC WKTが推奨されるようになりました。両方が入っている場合は、より表現力のあるWKT側を優先して読むのが原則です。
また、LAS 1.4で新設された点データフォーマット6〜10を使う場合はWKTが必須となり、Public Header BlockのGlobal EncodingにあるWKTビットで「座標系はWKT側にある」ことを示します。つまり「LAS 1.4だからWKTがある」ではなく、「点フォーマットとGlobal Encodingを見て、どちらを読むか決める」のが正しい手順です。
VLRのデータブロックは1レコードあたり最大64KB程度という制約があるため、非常に長いWKTを入れたい場合はEVLR側を使うことになります。
見落とされがちな落とし穴:X・Y・Zは整数で入っている
LASの点データは、X・Y・Zをそのままの実数では持ちません。符号付き32ビット整数で持ち、ヘッダにあるスケールとオフセットで実座標に戻します。
実座標X = (格納された整数X × X scale factor) + X offset
ここが日本の実務で効いてきます。平面直角座標系のY座標(東西方向)は原点から数万メートル、標高も含めれば数値の幅が大きく、しかも1mm単位で持ちたい。32ビット整数が表せるのはおよそ ±21億なので、スケールを0.001(=1mm刻み)にすると表現できる範囲は原点から約±2,147km分です。平面直角座標系の値域なら十分ですが、オフセットを0のままにして緯度経度(度)を入れたり、スケールを0.01にして「なぜか1cmに丸められた」と気づいたりする事故が起こります。
- スケールが0.001なら1mm、0.01なら1cm。点群の見かけの分解能はここで決まる
- オフセットは通常、その現場の代表座標(丸めた値)を入れる
- 座標系情報(GeoTIFF/WKT)は、スケールとオフセットを適用した後の座標に対して適用される
つまり「スキャナの精度はmm級なのにファイルはcm刻み」という状態は、機器ではなく書き出し設定の問題であることが少なくありません。
日本の現場では「平面直角座標系+標高」で受け渡される
ICT施工や公共測量で扱う点群は、緯度経度ではなく平面直角座標系(19系のいずれか)で、Zは標高という組み合わせが基本です。国土交通省の「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」(令和8年3月版)でも、出来形計測は現場に設けた基準点・工事引照点を用いて行い、成果を電子成果品として提出する枠組みになっています。点群の座標は、この基準点の成果が乗っている座標系の上に立っています。
WKTやGeoTIFFキーで指定する場合、日本の平面直角座標系はEPSGコードで表現できます。
| 測地系 | 平面直角座標系 I〜XIX のEPSGコード |
|---|---|
| 測地成果2000(JGD2000) | 2443〜2461 |
| 測地成果2011(JGD2011) | 6669〜6687 |
測地成果2024の扱いはJGD2024のEPSG登録の記事を参照してください。

Zは「標高」か「楕円体高」か、ファイルには書かれないことが多い
LASのVLRで指定できるのは基本的に座標参照系です。WKTであれば鉛直座標系(VERT_CS)を含む複合座標系として書くこともできますが、実際に受け取るファイルでは水平の座標系だけが書かれ、Zの基準が明示されていないことがよくあります。
GNSSが直接出すのは楕円体高で、標高はそこからジオイド高を引いて得ます。日本ではその差が数十メートルあるため、取り違えると点群全体が丸ごと上下にずれます。しかも「全部同じだけずれる」ので、点群を眺めただけでは気づきにくい。

さらに2025年4月の標高成果改定以降は、「どの時点の標高成果に準拠した点群か」という区別も必要になりました。古い点群と新しい実測を重ねるときは、水平だけでなく高さの素性も確認します。
受け取った点群を確認する順番
- 版と点フォーマットを見る(Public Header Block)。1.4かつ点フォーマット6〜10ならWKTを読む
- VLRの
LASF_Projectionがあるか。34735系(GeoTIFF)か2112(WKT)か、両方か - 空だったらメタデータや作業計画書で座標系を確認する。推測で当てはめない
- スケールとオフセットを見る。分解能と、座標がその現場の値域に収まっているか
- Zの基準を発注図書・成果表で確認する。標高か楕円体高か、どの成果に準拠しているか
- 既知点(基準点・検証点)の座標を点群から拾い、成果表と突き合わせる
5と6を省くと、水平は合っているのに高さだけ数十メートルずれた成果ができあがります。
座標系が違う点群を突き合わせるとき
複数年度・複数業者の点群を並べると、系違い(隣接する平面直角座標系の取り違え)や測地系違いに出会います。系が違えば座標値の桁は似ていても位置は数十km単位でずれ、測地系違い(旧日本測地系と世界測地系)なら約400mずれます。逆に言えば、ずれ量のオーダーが原因を教えてくれます。

点群そのものを変換するにはGISやCAD、専用ツールが要りますが、「この座標は何系のどの測地系か」を確かめる段階なら、代表点を数点抜き出してCSVにし、候補の座標系で変換して既知点と比べるのが早道です。GeoConverter Proはこの突き合わせ用の一括変換に使えます。
出典
- libLAS「Georeferencing LAS files with LAS 1.4」 https://liblas.org/development/wkt.html
- ASPRS「LAS Specification 1.4 – R15」(日本語版・日本測量機器工業会) https://sokugikyo.or.jp/wp-content/uploads/2025/03/LAS_1_4_r15_Japanese.pdf
- 国土交通省「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)令和8年3月版」 https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/content/001880735.pdf
- 国土地理院「全国の標高成果の改定」 https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/hyoko2024rev.html
記載は2026年8月時点の公表情報に基づきます。EPSGコードや仕様の細部は各一次資料で最新の内容をご確認ください。
次に確認する
- LandXMLのCoordinateSystemに何が書けるかを確認する — 同じICT施工の現場で、設計データ側がどう座標系を持つかです
- DXFに測地系を書く場所がない理由を確認する — 「書ける場所がある」LASとの対比になります
- 楕円体高から標高への変換手順を確認する — 点群のZを取り違えたときの直し方です
- ICT施工の現場でRTK-GNSSがどこに効くかを確認する(GeoDiveExa) — 点群の座標を支える基準点側の話です
- 書籍でまとめて学ぶ: 『日本の測地系Q&A』第13章「座標データの落とし穴」(Kindle Unlimited対応)
入門から通しで読むなら: 『日本の測地系がわかる本』 — 旧日本測地系から JGD2024 まで、座標がズレる理由と実務での扱いを1冊にまとめました(Kindle Unlimited 対応)
開発者より: アプリ・Kindle本・オープンソースの一覧は GitHub: amru195704 にまとめています。
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